環の零因子全体の集合は素イデアルの和集合
悩んでいて解決できた問題のメモです。Atiyah-MacDonaldの「可換代数入門」の1章 演習問題14に対応する内容です。
証明
$(0) \in \Sigma$ から $\Sigma \neq \phi$ であり、$\Sigma$ は帰納的順序集合であるから、Zornの補題により $\Sigma$ は少なくとも1つの極大元をもつ。
$\mathfrak{m}$ を $\Sigma$ の極大元の1つとする。$x, y \notin \mathfrak{m}$ とすると、$\mathfrak{m} + (x)$ と $\mathfrak{m} + (y)$ は零因子でない元(=非零因子)を含む。よって、$(\mathfrak{m} + (x))(\mathfrak{m} + (y)) \subseteq (\mathfrak{m} + (xy))$ も非零因子を含む。($\mathfrak{m} + (x)$ と $\mathfrak{m} + (y)$ はそれぞれ少なくとも1つの非零因子を含んでおり、それら2つの非零因子の積もまた非零因子であるため。)
$\mathfrak{m} + (xy)$ が非零因子を含んでいることから、$xy \notin \mathfrak{m}$。よって、$\mathfrak{m}$ は素イデアル。
ここで、環 $A$ のすべての零因子の集合を $Z$ とする。このとき、任意の $x \in Z$ に対して $(x) \in \Sigma$ を考えることができ、$(x)$ を含む $\Sigma$ の極大元(素イデアル)が存在する。よって、零因子全体の集合は素イデアルの和集合に等しい。
証明の補足
・$(\mathfrak{m} + (x))(\mathfrak{m} + (y)) \subseteq (\mathfrak{m} + (xy))$ の部分の詳しい説明
$m_1, m_2 \in \mathfrak{m}, \ a, b \in A$とすると、$m_1 + ax \in \mathfrak{m} + (x), \ m_2 + by \in \mathfrak{m} + (y).$
$(m_1 + ax)(m_2 + by) = (m_1m_2 + m_1by + m_2ax) + abxy \in \mathfrak{m} + (xy).$
よって、$(\mathfrak{m} + (x))(\mathfrak{m} + (y)) \subseteq (\mathfrak{m} + (xy)).$
「ん?」となったポイント
$\Sigma$ が極大元をもち、それらが素イデアルということは納得できていたのですが、なぜそこから零因子の集合=素イデアルの和集合がいえるの?と疑問に思っていました。
よく考えてみると、証明の最後の部分のように任意の零因子 $x$ からなるイデアル $(x)$ が $\Sigma$ の極大元に含まれる(あるいは $(x)$ 自身が極大元になる)ということに気づき、理解できました。
具体例で確認してみる
抽象論で議論していてもいまいち実感がわかないので、具体例を考えてみたいと思います。
環として $\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ を考えます。このとき、$\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ の内部は以下のようになっています。

$\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ の零因子の集合を $Z$ とすると、 \[ Z = \{0, 2, 3, 4, 6, 8, 9, 10\} \] です。(非自明な環では $0$ も零因子に含めて考えています。)
これは素イデアル $(2)$ と $(3)$ の和集合にちょうど一致していますね。
試しに $Z$ の中から元をとってみると、例えば $4$ をとったとき、$(4)$ はイデアルとして $(2)$ に含まれます。$2$ をとったとき、$(2)$ は極大イデアルになります。このように、零因子全体の集合から任意に元 $x$ をとったとき、$(x)$ は極大イデアルに含まれるか、それ自身が極大イデアルになることがわかります。
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